Research Topics/研究内容

本研究室では、安全・安心でサステイナブルな社会の実現に欠かせない超音波非破壊計測法の最先端研究を行っています。特に、非線形超音波、フェーズドアレイ、レーザ計測の独自技術をベースに、欧米を中心とした国際共同研究も活かしながら、「これまで見えなかったものを見えるようにする革新的な計測技術の創出」、そして産業界のメタバース「ディジタルツイン」の実現を目指して、研究を進めています。

閉じたき裂の非線形超音波フェーズドアレイ映像法

  • 超音波法は産業界でも幅広く利用されていますが、き裂面が接触した閉じたき裂では超音波が透過してしまうため、従来法では原理的に計測できません。
  • このような欠陥は、閉じたき裂だけではなく、キッシングボンド、剥離、微視欠陥など数多く存在します。
  • これらの計測法として、き裂面の開閉振動を利用した非線形超音波が注目されていますが、本研究室では、この非線形超音波を超音波フェーズドアレイと融合することで、閉じたき裂の映像法「非線形超音波フェーズドアレイ」の開発を行っています。
  • 分調波を用いた映像法SPACE(subharmonic phased array for crack evaluation)[Y. Ohara, et al., Appl. Phys. Lett. (2007)]は、閉じたき裂の深さ計測を世界で初めて実現した方法になりますが、その後、より簡易的に裏面き裂を映像化できる熱応力負荷法GPLC(global preheating and local cooling)[Y. Ohara, et al., Appl. Phys. Lett. (2013)]や、単一のアレイ探触子で全非線形成分の影響を計測できるFAD(fundamental wave amplitude difference)[Y. Ohara, et al., J. Acoust. Soc. Am. (2019)]を提案し、最近では、広範な欠陥に対応すべく1000nm以上の大変位のポンプ励振と組み合わせた超高速映像法[Y. Ohara, et al., Appl. Phys. Express (2021)]なども開発しています。

超多点レーザスキャンに基づく高分解能3次元映像法PLUS

  • 実構造物に発生する欠陥は複雑な3D形状を有していますが、現在の超音波フェーズドアレイでは短冊状の圧電素子が複数並んだ1Dアレイ探触子を利用しており、2D映像しか得られません。
  • 原理的には、2Dアレイ探触子による3D映像化も可能ですが、現状では128素子程度までが一般的であり、最多でも256素子(16×16)に限定され、十分な分解能は得られませんでした。
  • そこで本研究室では、送信に単一素子の圧電探触子、受信にレーザドップラ振動計の超多点2Dスキャンを組み合わせることで、従来限界を1桁以上上回る1000~10000素子の超多素子フェーズドアレイ映像法PLUS(piezoelectric and laser ultrasonic system)を開発しています[Y. Ohara, et al., Appl. Phys. Lett. (2020)Y. Ohara, et al., Jpn. J. Appl. Phys. (2022)Y. Ohara, et al., Jpn. J. Appl. Phys. (2023)]。
  • レーザドップラ振動計は0~20MHzの超広帯域受信が可能なため、送信探触子の周波数を変えるだけで、任意の周波数のフェーズドアレイ映像化が実現できます。

レーザスキャンによる超音波散乱場の3次元解析

  • 超音波非破壊評価では、欠陥から散乱する超音波を受信することで、欠陥検出やサイジングを行います。
  • しかし、シンプルに見える疲労き裂でさえ、複雑な微視構造を有していることから、その散乱挙動は非常に複雑です。
  • 本研究室では、PLUSのレーザ超多点スキャン技術をベースに欠陥を多数の散乱源へと分解し、各散乱源からの散乱波の3次元散乱挙動を抽出するアルゴリズムを構築しました[Y. Ohara, et al., Sci. Rep. (2022)]。
  • これにより、様々な検査条件に対する複雑な3D散乱現象を解明し、これまで熟練者の経験に基づいていた検査条件を、科学的根拠に基づき最適化し、新たな計測装置開発にもつなげることができます。

表面欠陥のための表面波フェーズドアレイ映像法

  • 材料の表面は、過酷な環境に晒され、欠陥発生の起点となることが多いですが、内部を映像化できる超音波フェーズドアレイでも、表面近傍は不感帯(dead zone)として計測できません。
  • この対策として、超音波フェーズドアレイが縦波や横波のバルク波を用いる常識を破り、表面波を用いたフェーズドアレイ映像法(surface-acoustic-wave phased array: SAW PA)を開発しました。
  • アレイ探触子をレイリー波の臨界角を有する楔に設置し、レイリー波用の映像化アルゴリズムを実装することで、リアルタイムで表面近傍の欠陥を高感度・高分解能に映像化できます[Y. Ohara, et al., AIP Adv. (2017)]。
  • 高感度計測にはくさび直下の領域を利用することが有効ですが、レイリー波は深さ方向への拡散減衰が無いため、楔の外側の領域も長距離伝搬するため、広範囲のスクリーニングにも利用できます。

特殊圧電素子設計に基づく高減衰材料のための低周波フェーズドアレイ

  • 経年劣化コンクリートの内部検査のニーズは高いですが、高減衰材料のため、金属で利用されるようなMHzの周波数帯域では計測できません。
  • 一方、数十kHzの周波数帯域を利用した計測法も提案されていますが、大型剥離の検査や厚さ測定には利用できますが、波長が長いため、微細な欠陥検査には感度が十分とは言えない状況です。
  • そのため、数百kHzの周波数のアレイ探触子があればよいのですが、周波数が下がると、隣接する素子間のクロストークやバッキング材での短パルス化が原理的に困難なため、MHzの周波数帯域とは異なる構造のアレイ探触子が必要とされていました。
  • そこで本研究室では、低Q値の圧電材料に対して、連成数値シミュレーションにより最適設計を見出し、高効率・短パルス出力可能な低周波アレイ探触子を開発しています[Y. Ohara, et al., Sensors (2021)]。